2013年10月30日水曜日

ステーションPARTⅡ

河合隼雄―駅長さん、駅長さん。久しぶりですなあ。
駅長―はて。どなたでしたでしょうかね。
河合―ほら、つい1年ほど前に、ここで長話をして。駅長はん、あんた天国行きの特急の出発時刻を遅らせたでしょう。
駅長―ええ、そうですか?出発時刻を遅らせる、なんてことはよくあることですからね。
河合―ああ、そうでっか。そのたびに神様に叱られてるのでしょう。でもね、わしの顔、思い出してくださいよ。
駅長―ええと。そうですなあ。あっ、そうだ。ピンサロの源さんでしょう。
河合―何ですか?そりゃあ。
駅長―ほら、ピンサロを経営しているとかいう。
河合―わしは、そんなもん経営していません。
駅長―そうですか?そうすると、・・・・。ああ、そうだ。詐欺師のヘラさんでしょう?
河合―あのね、駅長はん。もっとましな言い方はないのですかい。
駅長―ええ?詐欺師のヘラさんじゃないのですか?
河合―いや、そのう。当たらずといえども遠からず、ですわい。
駅長―それにしても、お客さんね。お客さんは、あんまり詐欺師らしい顔をしてはいらっしゃいませんね。
河合―でしょう?でしょう?だけどね、それは愚問ですよ。詐欺師がいかにも詐欺師らしい顔をしていたら、詐欺師の商売、できますか?
駅長―成程。いやあ、実に筋が通っていますなあ。
河合―でしょう?
駅長―それで今日はどのような御用事で?
河合―用事がないから、ここに来ているんじゃないですか。
駅長―ああ、そうですか。
河合―いやあ、今朝はね、朝風呂に入りましてね。いい湯でしたよ。
駅長―ほう、朝風呂?
河合―思わず鼻歌が出ましたよ。地獄よいとこ、一度はおいで アドッコイショ
駅長―鼻歌。
河合―それからね。♫いい湯だな いい湯だな 湯気にかすんだ 白い人影 あの娘かな あの娘かな♫
駅長―あのう、ちょっとね、お客さん。
河合―はい、はい。何ですか。
駅長―そのう、あの、湯気にかすんだ白い人影と歌いませんでしたか。
河合―はい、はい。確かにそのような鼻歌でしたよ。
駅長―それでね。お客さん。少しばかりね。つまらぬ質問をさせていただいてもよろしいでしょうか。
河合―はい、はい。何なりとどうぞ。
駅長―つまりですね。地獄にはですね。美しい女性はいらっしゃるのでしょうか。
河合―おう、それは中々いい質問ですな。地獄はね、美しい女性であふれかえっていますよ。
駅長―ええっ!本当ですか?
河合―おや、駅長さん。そんなことも知らなかったのですか。美人ほどね、地獄に落ちやすいという法則があるのですよ。これはね、フロイトの高弟であるレオナルド・ホラニャンという人が発見したのですがね。ホラニャンの定理というんですわ。
駅長―ほう、勉強になりますな。そうすると、右を向いても左を向いても、美人ばかり?
河合―はい、はい。まったくその通りです。どうですか、駅長さん。天国なんかに行っても、しょうもないでしょう?美人なんか、いやあしませんよ。
駅長―ええ。まあ。
河合―それならね。どうですか?ひとつ、いらっしゃったら。大歓迎しますよ。
駅長―あっ。いや。私はそのう、天国行きが既に決まっておりますので。悪しからず。
河合―ほう、それは残念ですな。
駅長―まったくです。何とかならんもんでしょうかねえ、再審で。あっ、いや、これは。今言ったことは、どうか忘れてください。
河合―へっへっへ。いやあ、駅長さんも見かけによらず結構女好きですなあ。
駅長―あのう、ちょっとねえ。わたしのことをそんな風に言わないでください。
河合―女好きといえばね、goromのやつも女好きなんですよ。
駅長―goromさん?一体誰ですか?
河合―このサイトの管理人ですがな。
駅長―ほう、管理人ですか。
河合―しょぼくれたやつですわ。女好きのノーベル賞好きなんですわ。
駅長―ノーベル賞好き?ノーベル賞を、いつもらったんですか?
河合―駅長はん、何をとんまなことを言っているんですか。ノーベル賞をもらうはずがないでしょう。
駅長―ああ、確かに。それで、ノーベル賞というのは、平和賞ですか?
河合―いやいや、平和賞には目もくれません。
駅長―それじゃあ、経済学賞ですか?
河合―経済学賞も眼中にありません。文学賞ですがな。
駅長―ええ?文学賞?ちょっと、このサイトのURLを教えてくれませんかね。どれどれ。ふむふむ。うーん。
河合―どうです?下手糞なひどい文章でしょう?
駅長―まったくですな。。ひどい文章ですな。
河合―全然見込みがないでしょう?
駅長―まったくありませんなあ。
河合―それでノーベル賞をくれと戯言を抜かしていやがるのですからね。
駅長―あきれたもんですなあ。それで、どんな小説を書いているのですか?
河合―駅長はん、驚くなかれ。まだ1本も書いていません。
駅長―ええ!書いていない?それでどうしてノーベル文学賞がもらえるのですか?
河合―ね?妙でしょう?
駅長―妙ですなあ。
河合―何でもね。やつの言うところによると、俺の頭の中に書いてある、そうですわ。
駅長―でもね、それではノーベル賞の選考委員は作品を読めないではないですか。絵に描いた餅ですなあ。
河合―いやね、「絵に描いた」ではなくて、「頭に描いた」なんですけどね。
駅長―ふーん。とにかく、インチキ臭いやつですなあ。
河合―まったくで。それからね、やつはね。村上春樹が受賞するのを邪魔しよう邪魔しようともしてるんですわ。
駅長―ほう、陰険なやつですなあ。
河合―それでね、ノーベル賞の選考委員に直訴しましてな。
駅長―直訴?
河合―選考委員の皆様、どうか村上春樹にだけは、やらんと
いてね、その代わり、どうか哀れなこのわたくしめに、とね。
駅長―あきれや野郎ですな。
河合―これは威しですなあ。
駅長―威しですかねえ。でもね、こいつは物の数に入っていないのでしょう?
河合―勿論、勿論。
駅長―物の数に入っていないものが、何を言っても威しにはならないでしょう。
河合―うーん。それからね。わしにもなんだかんだと言いがかりをつけてくるんですわ。
駅長―言いがかり?
河合―おい、こら。お前、さっき路上で屁をこいただろう、逮捕する、とね。
駅長―ええ?そんな逮捕、聞いたことがありません。世界中のどこの国でも、法律で屁を犯罪にしている国はありませんよ。
河合―でしょう?
駅長―立ち小便なら軽犯罪法に引っかかるかもしれませんがね。屁はねえ。ひどい、言いがかりですね。
河合―でしょう?そしてね。わしの息子や弟子にですな、因縁をつけて金を寄こせと言っているんですわ。
駅長―わあ、ひどいやつですなあ。どんな因縁ですか。
河合―何でもね。眼を付けたとか何とか言ってましたよ。
駅長―へえ。
河合―そしてね、金を寄こさないと殺すぞと脅迫してるんですよ。
駅長―わあ。おっそろしい。ヤクザですな。拳銃で、バーンですか?
河合―あんたね、駅長はん。あの貧乏人が、拳銃買う金なんか持ってますかいな。先だってはね、中国に出稼ぎに行こうとしたんですわい。
駅長―ほほう、中国に。
河合―日本では、仕事がありませんからな。それでね、船の切符を買うお金を持ってないでっしゃろ。それで何をしたかと言うと、輸出品のトヨタの車のトランクの中に隠れておったんですわい。
駅長―車のトランクに。
河合―ところがね、運が悪いというか、間が悪いというか、税関員がたまたまその車のトランクを開けてしまいましてな。
駅長―それで見つかったのですか。
河合―はい。
駅長―拳銃は買えないとなると、何で殺すと言ってるのですか。
河合―それがね。弓矢ですわい。
駅長―弓矢。古風な趣味ですな。だけど、弓矢では届かないでしょう?
河合―届きませんな。海の中に、ポチャンですわ。だから、わしはそのことについては何の心配もしていません。だいたいね、格好つけて平家物語の那須与一を気取っているのですがね。古典文学の平家物語を捏造してるんですわ。
駅長―捏造?
河合―それが、またおかしいんですよ。捏造して勝手に作り変えたのですがね、文法を間違えていやがるんですわい。
駅長―ハハハハ。どじですなあ。
gorom―おい、こら、ヘラサギ。見ず知らずの駅長におれのことをペラペラしゃべるな。馬鹿野郎。
駅長―あの人は誰ですか?
河合―あれが今話してたgoromですよ。
駅長―はは。あの人がgoromさんですか。それにしても、デエサクさんのときと違って、ちっとも怖くありませんなあ。
河合―そりゃあ、あんた。デエサクの真似をして化けて出てきたけれども、だいたいにおいてデエサクとは人間の格が違いますからな。
駅長―まったくですなあ。つまらない人間が、猿真似をしても笑いものの種になるだけですなあ。
河合―おっしゃるとおりです。その上、目が細くて鼻がぺちゃんこときている。色が黒くて足が短い、ちびくろサンボみたいなやつですからなあ。
駅長―まったく、おっしゃる通りで。え?ちょっと待ってください。今、足が短い、とおっしゃいませんでしたか?
河合―はい、確かに。あっ、そうか。あいつには足があったのか。(ブルブル。ガタガタ。)
駅長―ここに来て、震えだしましたね。
河合―やっぱり幽霊ではなかったんですよ。おお、怖。もうgoromの話はやめときましょう。
駅長―そうですな。そのほうがよろしいでしょうな。それで、さっきのお風呂の話ですがね。ちょっと、おかしいのですが。地獄には、お風呂はないはずですがね。灼熱地獄で温泉が出るのかな。お客さん、灼熱地獄にお住まいで?
河合―いえいえ、違いますがな。
駅長―うーん。一体どんなお風呂ですか?
河合―まあ、普通の五右衛門風呂ですわなあ。
駅長―ああ。それはね、お風呂ではありません。釜茹でですよ。
河合―知ってまんがな、知ってまんがな。そんなことぐらい。毎日、「あちい、あちい」と泣いておりますがな。
駅長―それなのに、どうしていい湯なのですか?
河合―それはね。へっへっへ。ちょっと細工をしてやりましてなあ。
駅長―細工?
河合―へえ。ちょっとボイラーに手を加えたんですわ。
駅長―ボイラー?五右衛門風呂はね、薪を燃やして焚くのですよ。
河合―駅長はん。頭が古いなあ。今ではね、地獄の釜茹でもガスのボイラーですわ。
駅長―ああ、そうでしたか。いやあ、知りませんでした。
河合―それでね。今朝そのボイラーに、ちょこっと細工をしておいたんですわ。42度ぐらいまでしか温度が上がらないようにね。
駅長―ふーん。
河合―そうすると、結構な朝湯になったというわけで。いやあ、気持ちよかったですわい。これから毎日、朝湯に入って美人の裸を鑑賞できるかと思うと、小原庄助さん、なんで身上つぶした。朝寝朝酒朝湯が大好きでと歌いたくもなりますわなあ。
駅長―それは、それは。
駅員―駅長。(ヒソヒソ、ヒソヒソ)
駅長―うん、うん。分かった。えーと。お客さんね、今、当駅の待合室に地獄の獄卒さん達が集っておられましてね。今度は、ワンランク上の地獄になるそうです。阿鼻地獄になるのか叫喚地獄になるのかは知りませんがね。すみませんが、待合室まで御足労願えないでしょうか。

河合―ああ、そうですか。はい、分かりました。

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